たかが脂肪肝、されど脂肪肝

みなさんは「脂肪肝」と聞いて何をイメージされるでしょうか?
腹部の超音波(エコー)検査を行った際、脂肪肝があり、「お酒を減らしましょう」とか「体重を減らしましょう」と説明すると、たいていの方は少し苦笑いをして、「わかりました」といって帰っていかれます。日常生活の見直しが必要とは思いながら、しかし、心のどこかに「悪い病気でなくて良かった…」との思いもあるのではないでしょうか?
果たして脂肪肝とは怖くない病気なのでしょうか?

脂肪肝とは肝臓の10%以上に中性脂肪が沈着した状態を言います。
超音波(エコー)でみると、脂肪がついた肝臓より白く見えます。
脂肪肝の原因としては大きく分けて、アルコールによるものと、アルコールによらないものに分かれます。

アルコールによる脂肪肝

アルコールを継続して多量に飲酒することで発病します。さらに飲み続けると徐々に進行して肝硬変となり、肝臓は元通りには戻らなくなります。そして肝癌や肝不全へと進展していきます。治療は単純で、肝硬変になる前にアルコールをやめることです(実際はこれが一番難しいのですが…)。

アルコールによらない脂肪肝

総称して非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)といい、そのほとんどは肥満に伴うものです。今やだれでも口にするメタボリックシンドロームと関連が深い脂肪肝です。このような脂肪肝はこれまでは良性の病気と考えられてきました。
ところが、近年、お酒を飲まない人の中でも、まるでお酒を飲み続けているかのように肝臓の障害が継続して、肝硬変、肝癌へと進行してしまう人がいることが分かってきました。
そのような病気を非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:NASH ナッシュ)といいます。
実は、お酒を飲まない脂肪肝の人(NAFLD)の人の約10人に1人(10%)がNASHであると言われています。
NASHと診断された人の約20%が、5~10年たつと肝硬変へ進展するとの報告もあります。

それでは、どのようにしてNASHと診断するのでしょうか。

実は、通常の検診などで行う超音波検査や血液検査では、脂肪肝であることの診断はできますが、NASHなのか、あるいは普通の脂肪肝なのかを鑑別することはできません。NASHか否かを診断するためには、肝生検が必要です。
肝生検とは、エコーで見ながら、肝臓に細い針を刺して肝臓の組織を一部採取して顕微鏡でみる検査です。NASHの肝臓の組織を顕微鏡でみると、白血球などの炎症を起こす細胞や、壊死した肝細胞、また、線維化がみられます。線維化とは炎症や壊死を起こした部位が修復される際にみられる変化で、線維化が進行すれば肝臓は硬くなり、肝硬変となります。線維化が進行するほど、重症のNASHとなります。

肝生検はNASHを診断する唯一の検査法であり、重症度の評価や治療方針の決定のための非常に重要な検査です。
肝生検は医師会病院で施行可能です。局所麻酔のみで5~10分程度の短時間で終了します。その後、病院に一晩泊まって帰ってもらっています。

続いてNASHに対する治療の話です。

NASH患者には高率にメタボリックシンドロームが合併していることが分かっており、メタボリックシンドロームに対する対策がNASHに対する最も基本的な治療法でもあり予防法でもあります。
まずは食事療法や運動療法によって体重を減らすことです。また、メタボリックシンドロームの診断項目である、高血圧や高血糖あるいは高脂血症を改善させる薬剤が、NASH患者の肝機能データを改善させたとする報告は多数あります。
しかしながら、これだけ医学の進歩が目覚しい時代ですが、実はNASHに対する治療薬はまだしっかりとは確立されていないのが現状です。現在研究段階であり、近い将来結論がでるものと思われます。

今や検診受診者の約30%に脂肪肝があるといわれる時代です。「肝臓は沈黙の臓器」といわれ、脂肪肝の段階ではまず症状はありません。脂肪肝と言われた方は決して楽観視せず、かかりつけの先生に相談されることをお勧めします。特に、肥満や高血圧や高血糖、脂質異常症などメタボリックシンドロームと関係する疾患をお持ちの方、あるいは減量にも関わらず、肝機能データが改善しないような方は、NASHである可能性がより高くなります。そのような方は肝生検を行い、NASHであるのかどうか、NASHであれば重症度はどの程度なのかを確認した上で治療方針を決めることが、将来肝硬変や肝癌になることを防ぐためにも重要なことと思われます。
たかが脂肪肝、されど脂肪肝。お酒を飲まなくても、怖い脂肪肝「NASH」の存在があること、また脂肪肝の人はだれでもNASHになる可能性があること認識しておく必要があると思います。

文責
古田 晃一朗

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