ヒトは何故肥るのか ~倹約遺伝子の光と影~


ここ数十年のわが国の国民栄養調査の結果を見ると、体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割ったBMI(体格指数)は20歳代の女性で低下傾向にあるものの、他の年代では男性も女性も増大してきています。この値が22前後の人が最も健康で疾病率が少なく、日本人では25以上になると糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病の疾病率がその2倍になると言われています。そこで日本肥満学会ではこの値が25以上を肥満、30以上を高度肥満と定義し、治療を考慮することにしました。しかし世界保健機構(WHO)の肥満の定義は30以上です。欧米人では30以上でこれらの疾病率が2倍になるからです。どうも日本人は肥満に対して抵抗力が弱く、高度肥満になる前に糖尿病などを発症してしまう傾向があるようです。

ところで、太りやすい体質とか、太りにくい体質とかとよく言われていますが、実はこれには「倹約遺伝子」が関係しているのです。
およそ250万年前、初めての人類といわれる猿人が誕生し、4万年前に現生人類が出現しています。その誕生以来ずっと人は飢餓と戦ってきました。そして生き延びるために少しずつ生存に有利な変化をし、エネルギーを効率よく脂肪に蓄えるための遺伝子変異を起こしました。それが倹約遺伝子です。この遺伝子変異は、これまでに40種類以上報告されており、日本人はこの倹約遺伝子を持つ割合が欧米人の二、三倍も高頻度であることが明らかになっています。

人が食べ物を蓄え、いつでも空腹感を満たすことができるようになったのは、長い歴史の中ではほんの一瞬前のことです(しかし実際にはこの地球上の9割以上の人々が、今でも飢餓と戦っていることを忘れてはいけない)。飢餓の時代には生存のために有利な条件であった倹約体質なのですが、飽食と運動不足の現代日本社会では肥満を招く不利な遺伝子となってしまったのです。しかし、肥満の原因はすべて遺伝子によるものではなく、遺伝因子が3割、残りが生活習慣などの環境因子といわれています。脂肪を貯めやすい太りやすい体質に生活の変化が加わり、日本人に肥満が増えてきていると考えられます。

文責
狩野 稔久

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